ひらがなの書き順はそんなに大切?|学校での扱いと「1つとは限らない」理由
「ひらがなの書き順は、間違えたらいけないの?」「アプリと学校で、書き順がちがうと言われた」。そんな疑問に答えるために、文部省(いまの文部科学省)がまとめた『筆順指導の手びき』の考え方と、学習指導要領での扱い、書き方に差が出る理由を、調べた資料にもとづいて整理しました。先に結論を書くと、書き順は学校でも大切にされていますが、「正しい書き順は1つだけ」とは限りません。そのうえで、家庭では学校で習う書き方を優先するのがおすすめです。
学校では、書き順をどう教えている?
小学校学習指導要領(平成29年告示)の国語には、1・2年生の書写に関する事項として、「点画の書き方や文字の形に注意しながら、筆順に従って丁寧に書くこと」が入っています[1]。書き順は、低学年から大切にされていることがわかります。同じ事項には、姿勢や鉛筆の持ち方を正しくすること、点画のつなぎ方や長さ、方向に注意して正しく書くことも並んでいます[1]。書き順だけでなく、形や持ち方もいっしょに学ぶ内容だということです。
1・2年生の書写は、鉛筆などで書く硬筆が中心です。東京都教育委員会のサイトにある教科書の調査資料では、東書・学図・教出・光村・日文の5社の書写教科書をくらべていて、1・2年生は硬筆による学習に限られると整理されています[5]。
横浜市教育センターの書写指導の資料には、筆順の基本として「上から下へ」「左から右へ」が示されています[4]。教え方の工夫としては、1画ずつ色を変える、番号をふる、空中で指をなぞって書く(空書き)などが紹介されています[4]。ただし、この資料はひらがな全体の筆順を細かく説明するものではなく、例は主に漢字です。
「筆順指導の手びき」とは?
『筆順指導の手びき』は、昭和33年(1958年)に文部省が出した資料です。当時の教育漢字881字について、学校で教える標準的な筆順を示しました[2]。学習のときに混乱が起きないよう、筆順をそろえることがねらいでした[2][3]。
大切なのは、その中身の考え方です。手びきは、書家の間でも、一般の社会でも、同じ字に2種類や3種類の筆順が行われていると述べています[3]。そのうえで、取り上げなかった筆順についても「誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない」としています[3]。文化遺産オンラインの解説も、ほかの筆順を否定するものではない、と書いています[2]。
ただし、実際にはこう説明されています。文部省の名前で出されたため、ほかに標準がない状態になり、教科書や学習参考書がこの筆順にそろっていった、というのです[2]。「学校ではそろえて教える」ことと、「それ以外は間違い」ということは、別の話だとわかります。
手びきには、筆順をそろえる理由も書かれています。字の形がじゅうぶんに整い、同じ部分は同じ順序で書けるようにしておくと、学習の上で効果的で、能率的だという考えです。これは漢字だけでなく、かなやローマ字にも言えると述べています[3]。なお、かな1字ずつの筆順が手びきの表にあるかどうかは、確認できていません。
書き方に違いが出るのは、なぜ?
流派や書体、国によって筆順が変わる
手びきが書いていたように、書家の間にも一般の社会にも、2〜3種の筆順がありました[3]。書体が変わると、筆順が変わることもあります。中学校の書写教科書の調査報告書(竹田地区教科用図書選定委員会)では、楷書から行書へ進む学習の観点の1つとして、4社すべてで「筆順の変化」が挙げられています[6]。
漢字では、国や地域によっても標準の筆順がちがいます。たとえば「玉」は、日本と、中国・台湾とで順が異なる例として紹介されています[9]。ひらがなの話ではありませんが、「書き順は1つに決まっている」とはかぎらないことを示す例です。
印刷の字と、教科書の字では形がちがう
形のちがいもあります。辞書づくりの現場からの記事では、「き」「さ」「ふ」「り」「や」などで、明朝体では筆の流れでつながっている部分が、教科書体では離れている、と紹介されています[7]。字を読み始めた子どもが、戸惑うことがあるといいます[7]。
文化庁の広報誌では、2016年の「常用漢字表の字体・字形に関する指針」が紹介されています。手書き文字と印刷文字には表し方の習慣のちがいがあり、どちらか一方だけが正しいわけではない、と述べています[8]。また、手書き文字は形が多様で、骨組みが認められるなら細部の違いで誤りと判断すべきではない、とも書かれています[8]。これは常用漢字についての指針で、ひらがなに直接あてはめた説明ではありません。ただ、考え方としては参考になります。
家庭でできる工夫
ここからは、上の資料の考え方をふまえた、一般的な進め方の例です。研究で効果が確かめられた方法ではなく、お子さんによって合う方法はちがいます。
1 まずは、学校で習う書き方を優先する
学校の先生や教科書が示す書き方があるなら、そちらにそろえるのがおすすめです。授業や板書、宿題の見本と同じになるので、お子さんが迷いにくくなります。
2 「間違い」ではなく「ほかの書き方もある」と伝える
書き順がちがっていても、手びきは「誤りとするものではない」という立場でした[3]。「それはダメ」ではなく、「学校ではこう習うよ」と伝えると、書くこと自体が嫌になりにくくなります。
3 ねらいは「形が整うこと」
書き順をそろえる理由は、字の形が整い、同じ部分を同じ順序で書けるようにするためでした[3]。お子さんにも「こうすると、きれいな形になりやすいよ」と、理由とセットで話せます。
4 目で見てわかる工夫をする
1画ずつ色を変える、番号をふる、空書きをする、といった学校の工夫[4]は、家庭でもまねしやすい方法です。このサイトの練習ページでも、動くお手本を見て、指でなぞることができます。1日1〜3文字ほどの短い時間で終えると、翌日もやりたい気持ちが残りやすくなります。画面で見たあとに、鉛筆で1回書いてみるのも、おすすめの進め方です。
5 お手本は「見本の1つ」として使う
練習ページのお手本は、KanjiVGという公開データにもとづいています。学校の教科書と細部がちがうことがあるので、迷ったときは学校の書き方を優先してください。「お手本と学校がちがうな」と気づいたら、それは書き方を比べるよい機会です。お子さんといっしょに見くらべて、「学校ではどっち?」と話してみてください。
よくある疑問
書き順を間違えると、×になりますか?
学習指導要領は「筆順に従って丁寧に書く」ことを示しています[1]。一方、手びきはほかの筆順を誤りとはしていません[3]。実際の評価のしかたは、学校や先生によって異なると考えられますが、確認できていません。気になるときは、先生に聞いてみてください。
学校とちがう書き順を覚えてしまったら?
責めなくて大丈夫です。低学年のうちに、学校の書き方にそろえておくと、授業で混乱しにくいといわれます。「学校ではこう習うよ」と見せながら、いっしょに書いてみてください。
アプリや本で、書き順がちがうのはなぜ?
もともと筆順に複数の種類があり、書体や教科書によっても形がちがうためです[3][7]。どれか1つが「偽物」というわけではありません。
書き順がちがうと、字がきたなくなりますか?
手びきは、字の形が整うよう筆順をそろえるという考え方を示しています[3]。ただ、「ちがう順で書くと必ず乱れる」と確かめた研究は、今回は確認できていません。お子さんの書く様子に不安があるときは、学校の先生に相談してください。
参考にした資料
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)国語」(第1学年及び第2学年の書写に関する事項に、「筆順に従って丁寧に書くこと」が入っていることを確認)
- 文化庁「文化遺産オンライン」筆順指導のてびき(発行者が文部省、昭和33年であること、教育漢字881字が対象であること、それ以外の筆順を否定しないとされていること、教科書などがこの筆順にそろったという説明を確認)
- 「「筆順指導の手びき」(「本書のねらい」等を引用)」(個人運営のサイト。手びきの原文の引用として、同じ字に2〜3種の筆順があること、取り上げなかった筆順を誤りとしないこと、かなにも同じことが言えることを確認。原本そのものは見ていない)
- 横浜市教育センター「書写指導サポートブック ~横浜の書写指導~」(令和5年7月。「上から下へ」「左から右へ」の原則と、色分け・番号・空書きの工夫を確認)
- 東京都教育委員会のサイト掲載「小学校書写の教科書調査研究資料」(5社の教科書の比較と、第1・2学年が硬筆による学習であることを確認)
- 竹田地区教科用図書選定委員会「令和7年度使用 中学校教科用図書調査研究報告書(書写)」(行書の学習で「筆順の変化」が4社で観点になっていることを確認)
- JapanKnowledge連載「日本語、どうでしょう?」の記事(2011年4月18日の記事。き・さ・ふ・り・やで、明朝体と教科書体の形が異なることを確認)
- 文化庁広報誌「ぶんかる」連載「言葉のQ&A」の常用漢字表の回(手書き文字と印刷文字の習慣のちがいと、骨組みが認められれば細部で誤りとしない考え方を確認)
- Weblio辞書「筆順」(補助資料。日本と中国・台湾とで「玉」の筆順が異なる例を確認)
この記事について:学習指導要領(国語)の文言は、文部科学省のPDFを開いて確認しました。『筆順指導の手びき』の原本は直接見ておらず、文化遺産オンラインの解説と、原文を引用したサイトの内容を突き合わせています。学習指導要領の解説書(国語編)に書かれた筆順の説明、ひらがな1字ずつの筆順が学校や教科書でどうちがうか、評価のしかたは確認できていません。図1・図3はこの記事の筆者による整理で、図2の書き順は練習ページのお手本データです。自分で計算した数字はありません。専門家の監修は受けていません。内容に誤りがあれば、お知らせください。