ひらがなの成り立ち|漢字の草書体から生まれた文字と、1900年の統一
ひらがなは、いつ、どうやって生まれたのでしょう。「あ」は、もとは漢字の「安」だった、と聞くとおどろくかもしれません。このページでは、ひらがなが漢字の草書体から生まれた経緯、平安時代のようす、昔は1つの音に何種類もの字があったこと(変体仮名)、1900年に小学校で教える字が1つにそろえられたことを、辞典や論文などで確かめてまとめました。書き順の練習の合間の、ちょっとした読みものとして使ってください。
ひらがなは、どうやって生まれたの?
むかしの日本には、自分たちの文字がなく、中国から入ってきた漢字を使っていました。ただ、漢字だけでは日本語をうまく書き表せませんでした。そこで、漢字の意味ではなく、音だけを借りて日本語を書く方法が生まれました。これが万葉仮名です[8]。
万葉仮名を、筆で続けて書く草書体にくずした文字が「草仮名」です[8]。草書体とは、漢字の点や画をつなげて、すばやく書けるようにくずした書き方のことです。8世紀末の正倉院文書には、字形や筆順の上で、平安時代の平仮名につながる草仮名が記されているとされています[3]。9世紀の中ごろからは、草体化がさらに進みました[1]。辞典では、平仮名は「漢字の草体から作られた草仮名を、さらに簡略化したもの」と説明されています[1]。
ひとつひとつの字のもとになった漢字を、字源といいます。精選版日本国語大辞典は、それぞれの字源は万葉仮名に使われた漢字で、その草書体をいっそう流れるように簡単にしたもの、と説明しています[1]。たとえば「あ」は「安」、「い」は「以」、「か」は「加」、「は」は「波」からできました[7]。
一覧を見ると、「ひ」は「比」、「り」は「利」、「わ」は「和」と、もとの漢字の面影が残る字もあれば、ずいぶん形が変わった字もあります。「つ」の字源は、資料によって「川」と「州」で説明がわかれています[7][9]。字源には、こうした説のちがいが残るものもあります。表には、「め」は「女」、「を」は「遠」、「ん」は「无」からできたと書かれています[7]。いまの形から、もとの漢字を想像するのがむずかしい字も多くあります。
平安時代のひらがな
平仮名は、平安時代の初めから中ごろにかけて、主に女性が歌や手紙を書くのに盛んに使ったことで発達した、と辞典に説明されています[2]。このため「女手(おんなで)」とも呼ばれました[1]。貴族の社会では、平仮名は私的な場や女性のものと考えられていた、という説明もあります[3]。
その位置づけが変わったのが、905年の『古今和歌集』です。この歌集が選ばれたことで、平仮名は一気に公的な地位を得たと説明されています[1]。935年ごろの『土佐日記』も、平仮名の歴史を語るときに挙げられる作品です[3]。
ただし、平安時代の平仮名は、いまの私たちが習う字と、そっくり同じではありません。そのころの平仮名には、1つの音にいくつもの形があったといわれます。ここから先が、変体仮名の話です。
1つの音に、いくつもの字があった
平仮名は、古くは1つの音に対して、さまざまな形の字(異体仮名)がありました[1]。いまの平仮名の字体以外のものを、変体仮名と呼びます[1]。論文の紹介では、変体仮名は「いまの平仮名とは、もとの漢字がちがう字、または、もとの漢字は同じでも形が大きくちがう字」とされています[5]。研究者の提案文書でも、かつては1つの音に複数の字があるのがふつうで、いまは原則として1つの音に1つの字を使う、と説明されています[6]。
大きな転機が、1900年(明治33年)です。この年の小学校令施行規則の「第一号表」に、48種の平仮名が示されました[3]。いまの平仮名は、このときに示された字体にもとづいています[5]。研究者は、この決まりを、変体仮名が一般の日本語の書き方から退いていく大きな転機と見ています[6]。同じ年に、帝国教育会の国語改良部が、同じ音の仮名に何種類もあるのを1つに限ろうと議決した、という経緯も紹介されています[4]。
変化は、新聞にも見られます。『横浜毎日新聞』の仮名字体を調べた論文では、ある号まで複数の字体で「に」を書いていた紙面が、次の号からいまの字体の「に」だけになった例が示されています[5]。
変体仮名は、いまも完全に消えたわけではありません。そば屋などの看板や店名、書道作品、商標などに残っています[4]。戦後生まれの人名(特に女性)や、和風の店の屋号に使われることもあるそうです[6]。2017年には、Unicodeに285字の変体仮名が登録され、コンピュータでも扱えるようになりました[4]。お子さんが学校で習うのは、1900年に統一された、いまの平仮名です。ひとつの音にひとつの字、というのは、いまは当たり前に感じますが、長い歴史の中では、1900年に整えられた決まりでもあるのです。
家庭でできる工夫|歴史を「遊び」に変える
ここからは、上の内容をふまえた一般的な楽しみ方の例です。研究で効果が確かめられた方法ではありません。お子さんが興味を持ったときに、気軽にためしてみてください。
1 「この漢字は、どのひらがな?」クイズ
図3の表を見ながら、「『安』は、どのひらがなの先祖でしょう」と出題してみましょう。低学年のお子さんには、漢字を保護者が読んであげれば大丈夫です。「あ」が「安」だと知ると、字の形に目が向きやすくなります。
2 町で変体仮名をさがす
そば屋さんなどの看板に、見慣れない形の仮名があるかもしれません[4]。見つけたら、「むかしの書き方だね」と話してみてください。ただし、読めなくても心配はいりません。
3 「筆で続けて書いた字」と想像してみる
ひらがなは、筆で続けて書く草書から生まれました[8]。曲線が多く、筆をつなげて動かすような形が多いのは、そのためだと考えると、なぞり書きのときにも、筆の流れをイメージしやすくなります。これは一般的な見方で、書き順の決まりとは別の話です。
4 学校で習う形が基本
昔の字や変体仮名は、「ほかの時代の書き方」です。ノートや宿題では、学校で習う字を使います。歴史の話は、あくまで楽しみとして、書き方の練習とは分けて伝えるのがおすすめです。
よくある疑問
ひらがなは、だれが作ったのですか?
今回確認した資料には、特定の1人が作ったという説明は出てきませんでした。複数の資料が、万葉仮名がくずされて草仮名になり、平仮名へと発達していったという、時間をかけた流れを説明しています[1][2]。
カタカナも、同じように生まれたのですか?
カタカナも漢字から生まれ、平仮名と同じころに登場して、使われ方がちがったと説明する資料があります[8]。カタカナの成り立ちは、この記事では詳しく確認していません。
変体仮名で書くのは、間違いですか?
間違いとは言えません。変体仮名は、1900年以降の学校教育では教えられていない字形のことです[4]。看板や書道では、いまも使われています[4]。
練習ページのひらがなは何字ですか?
このサイトの練習ページでは、71字を扱っています。清音46字と、濁音・半濁音25字の合計で、これはこのページの筆者が数えました。1900年の「48種」と、いまの46字とのちがいについては、確認できていません。
参考にした資料
- コトバンク「平仮名」(デジタル大辞泉、百科事典マイペディア、精選版日本国語大辞典、山川日本史小辞典の記述。草仮名をさらに簡略化したこと、9世紀中ごろの草体化、女手、905年の古今和歌集、字源の説明、古くは1音節に多種の異体仮名があったこと、変体仮名、1900年の小学校令施行規則と48字を確認)
- コトバンク「平仮名」(別の辞典の記述。平安初期から中期に主に女性が用いて発達したこと、905年の古今和歌集、1900年に現行の字体に統一されたことを確認。収録辞典名は確認できていない)
- Wikipedia「平仮名」(補助資料。8世紀末の正倉院文書の草仮名、女手と貴族社会での位置づけ、『古今和歌集』『土佐日記』、1900年の「第一号表」に48種が示されたことを確認)
- Wikipedia「変体仮名」(補助資料。1900年の帝国教育会国語改良部の議決、いまも看板・書道・商標に残ること、2017年6月のUnicode 10.0で285字が登録されたことを確認)
- 国立国語研究所 学術情報リポジトリ「銭谷真人『『横浜毎日新聞』における仮名字体および仮名文字遣い』(『日本語の研究』10巻4号、2014年)の紹介」(現行の平仮名が明治33年の小学校令施行規則の字体にもとづくこと、変体仮名の定義、「に」の字体の例を確認。論文の本文は確認できていない)
- 高田智和・矢田勉・斎藤達哉による変体仮名の提案文書(2015年。Unicode L2/15316)(変体仮名の定義、1900年の施行規則で1音1字体に統一されたこと、人名・屋号・商標での使われ方を確認)
- 北海道のサイトに掲載された「ひらがなとくずし字の説明資料(ひらがな漢字一覧)」(ひらがなごとの字源の一覧を確認。発行者の明記は確認できなかった。ほかの資料と全字を突き合わせてはいない)
- FUN! JAPAN「ひらがなの由来・歴史に関する記事」(補助資料。万葉仮名が音だけを使うこと、9世紀に草書で書かれた草仮名から平仮名になったこと、「安」から「あ」の例を確認)
- Wikipedia「仮名 (文字)」(補助資料。「つ」が「州」を字源とするといわれる、という記述を確認)
この記事について:上の資料のページを実際に開いて確認しました。ただし、文化庁・国立国語研究所の論文本文や、各時代の原資料は直接見ておらず、辞典の記述と論文の紹介、提案文書にもとづいています。Wikipediaは補助として使い、重要な点は辞典や研究機関の資料と照らしています。字源の一覧(図3)は1つの資料の表を写したもので、全字の突き合わせはできていません。「つ」の字源は説が分かれています。1900年の48種と現在の46字のちがい、「土佐日記」の詳しい内容は確認できていません。図1の草仮名の絵、図4はイメージ図です。数字では、練習ページの71字(清音46字+濁音・半濁音25字)のみ、筆者が数えました。専門家の監修は受けていません。内容に誤りがあれば、お知らせください。