家庭でできるひらがなの練習の進めかたと遊び
ひらがなの練習は、何から始めて、1日にどれくらいやればいいのでしょう。このページでは、幼児の文字の学びについて公的な資料や研究で確かめられたことと、一般にいわれる家庭での工夫を、分けて整理しました。結論を先に言うと、「この時間・この方法がよい」と決められる研究は、確認できた範囲ではありませんでした。お子さんの様子に合わせて、続けやすい形を選んでください。
まず、公的な資料では何が大切とされている?
幼稚園教育要領の領域「言葉」では、内容として「日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう」ことが挙げられています[1]。内容の取扱いでは、幼児が文字などを使って思ったことや考えたことを伝える喜びや楽しさを味わい、文字に対する興味や関心をもつようにすること、とされています[1]。
この文面から読み取れるのは、「きれいに書けるように教え込む」ことが目標ではなく、「文字っておもしろい」「伝えたい」という気持ちを育てることが、まず大切にされているということです。ここは、運営者が読んだ範囲での整理です。
小学校に入ると、国語の学習指導要領で、平仮名の読み書きや、姿勢・鉛筆の持ちかたに気をつけて丁寧に書くこと、筆順に従って書くことが、書写の内容として示されています[4]。幼児期は、そこへ向かう前の「慣れる時期」と考えると、気持ちが軽くなるかもしれません。
研究でわかっていること
書けるようになるまでには、段階がある
愛媛県の公立保育所の幼児30名(4歳児8名、5歳児15名、6歳児7名)を対象に、ひらがな10文字を使って「読む」「聞いて書く」「見て写す」を比べた研究があります[2]。4歳児は、聞いて書くことはほぼできず、見て写しても記号のように写す段階でした。5歳・6歳になると、読みはほぼできていましたが、見て写して正しく書ける割合は、読みより低いことが示されています[2]。字の形は5歳から写せるようになる一方、画の順や向きは6歳でも課題が残った、とも報告されています[2]。
この研究は、1つの地域の小さな調査です。「何歳で何文字」という基準にはなりません。読めることと、書けることは別の力で、書くほうが時間がかかる場合がある、という見かたの参考にしてください。
手で書く練習は、キーボードより成績がよかった研究がある
海外の研究者らが、幼稚園児50名(平均5.4歳)を4つの練習法に分けて比べた研究があります[3]。手で字を写す・なぞる練習をした組は、キーボードで打つ組より、文字の名前を答えるテストで92.3%と75.5%、単語を書くテストで69.2%と7.8%と、成績がよいという結果でした[3]。
ただし、この研究には注意点があります。人数が少ないこと、練習の期間が短いこと、長く覚えているかは調べていないこと、子どもがキーボードに慣れていなかったことが、著者らの挙げた限界です[3]。また、日本語のひらがなを使った研究ではありません。確認できた範囲では、ひらがなで同じ比べかたをした研究は見つかりませんでした。「手で書くほうがよい」と言いきれる話ではなく、「手を動かす経験には意味がありそう」くらいに受けとめるのが安全です。
書き順は、教えかたで差が出る可能性も
4〜5歳の幼児48名に、新しい3画の記号を覚えてもらう研究では、4歳半より前の子は、自分で画の順を選んだほうが、あとで記号を見分けやすかったと報告されています。4歳半以上では、その差は見られませんでした[5]。ただし、これは実際のひらがなではなく、新しい記号を使った短期間の研究です[5]。「書き順は教えなくていい」という意味ではありません。小学校では筆順に従って書くことが書写の内容に入っています[4]。
家庭でできる工夫(一般にいわれること)
ここからは、研究で効果が確かめられた方法ではなく、幼児教育や家庭学習で一般にいわれている工夫です。合うかどうかは、お子さんによってちがいます。
1日の目安は、短く、少なく
1日にどれくらいが適切か、という研究結果は、確認できませんでした。一般には、1日1〜3字、5分ほどで「できた」を感じて終える形がすすめられることが多いです。もっとやりたがる日は、続けてかまいません。いやがる日は、やらない日があってもよいと思います。
指でなぞる
書く前の準備として、お手本の字を指でなぞります。画の始まりと終わり、向きを、体で感じることができます。ひらがな書き順れんしゅうのように、動くお手本を見て指でなぞるのも、この一種です。
大きく書く・体で書く
いきなり小さなマスに書かず、空中や、大きな紙に腕を使って書くと、画の流れをつかみやすいといわれます。小さい字を書く手の力が育つまでは、大きいほうが取り組みやすいと感じる子もいます。
砂・粉・粘土・水で遊ぶ
トレーに薄く砂や小麦粉をしいて、指で書いては消す。粘土をひも状にのばして字の形にならべる。水をふくませた筆で、床や板に書く。どれも、鉛筆を持たなくても「字の形」に触れられる遊びです。衛生や後かたづけのしやすさを考えて、場所を選んでください。
鉛筆の持ちかたは、見守りながら
鉛筆の持ちかたや姿勢は、小学校の書写で大切にされる内容です[4]。ただ、幼児のうちから正しく持たせることにこだわりすぎると、書くこと自体がいやになることもあります。お子さんが書きやすそうな持ちかたを見守りつつ、学校に入る前後に先生に相談するのでもよいでしょう。
ほめかたは「できたところ」を
書き順や形が合っていなくても、「ここまで書けたね」「この線、上手」と、できた部分を伝えます。やり直しをさせるより、翌日もやってみたい気持ちが残りやすいと考えられます。
よくある疑問
何歳から始めればいいですか?
公的な資料では、「何歳から」という線は示されていませんでした。幼稚園教育要領では、文字に興味をもつことが大切にされています[1]。お子さんが「書いてみたい」と言ったときが、きっかけになります。
鏡文字になったり、はみ出したりします
書くのに慣れる途中で見られることがある、と一般にいわれます。図1の研究でも、画の順や向きは、6歳でも課題が残る場合がありました[2]。ここでは診断のような判断はせず、気になる場合は、園や学校の先生、専門の機関に相談してください。
タブレットでの練習と、紙で書く練習は、どちらがいいですか?
この記事では、ひらがなでの比べた研究を確認できていません。キーボードより手書きの成績がよかった研究はありました[3]が、タブレットを指でなぞる場合の話ではありません。画面で形をつかみ、紙でも1回書く、と組みあわせる使いかたもあります。
1日どれくらい、続ければいいですか?
決まった答えは確認できませんでした。5分ほどで、「もう1回やりたい」くらいで終えると続けやすい、と一般にいわれます。
参考にした資料
- 文部科学省「幼稚園教育要領 第2章 ねらい及び内容」(領域「言葉」の、文字などで伝える楽しさを味わうこと、文字への興味・関心をもつことの記述を確認)
- 愛媛大学教育学部紀要(2007年)所収の論文「https://www.ed.ehime-u.ac.jp/~kiyou/2007/pdf/10.pdf」(ひらがな学習の入門期の幼児30名の、読み・聞き書き・見て写すことの比べ。論文の正式な題名と著者名は、開いた資料からは確認できていません)
- Ibaibarriaga, Acha & Perea (2025), Journal of Experimental Child Psychology「Handwriting(著者掲載のPDF)」(幼稚園児50名の手書きとキーボードの比べ、正答率、限界の記述を確認)
- 文部科学省「小学校学習指導要領(国語)」(平仮名の読み書き、書写での姿勢・筆記具の持ちかた・筆順の記述を確認)
- Merritt, Swain, Vinci-Booher & James (2020), Frontiers in Psychology「Frontiers in Psychology 論文PDF」(4〜5歳児48名、新しい3画記号、画の順を自分で選ぶ条件と指示される条件の比べ、限界を確認)
この記事について:幼稚園教育要領と学習指導要領のページ、3本の研究論文(のPDF)は、開いて内容を確認しました。ただし論文は、要約・要点として読んだもので、細かい表や方法の全文までは確認できていません。確認できていないこと:日本の幼児を対象にした、なぞり・砂・粘土などの効果を調べた研究、1日の練習時間の研究。「一般にいわれる工夫」の部分は、研究で確かめた内容ではありません。自分で計算した数字はありません(図2の数字は論文から写しました)。専門家の監修は受けていません。書字の発達や学びが気になるときは、園・学校の先生や専門機関にご相談ください。