小学校入学前にひらがなはどこまで?家庭でできる準備と、小1の国語での学び
入学が近づくと、「ひらがなは、ぜんぶ書けるようにしておかないと」と気になる保護者の方は多いと思います。このページでは、小学1年生の国語でひらがながどう扱われているか、幼稚園・保育から小学校へのつなぎかた、調査でわかっている就学前の様子を、公開されている資料から整理しました。そのうえで、家庭でできる準備を紹介します。結論を先に言うと、「入学前にぜんぶ書けなくてはいけない」と言い切る資料は確認できていません。
小1の国語で、ひらがなはどう扱われる?
小学校の学習指導要領(平成29年告示)の国語では、第1学年及び第2学年の「知識及び技能」に、ひらがなに関わる内容が入っています[1]。大きく分けると3つです。
1つ目は、文字を読み、書くことです。「平仮名及び片仮名を読み,書くとともに」、片仮名で書く語の種類を知り、文や文章の中で使うこと、と示されています[1]。ひらがなの読み書きは、小学校の国語で学ぶ内容として、はっきり位置づけられています。
2つ目は、表記のきまりです。のばす音、小さい「ゃ・ゅ・ょ」や「っ」、「ん」の書きかた、助詞の「は」「へ」「を」の使いかた、句読点の打ちかた、かぎ(「 」)の使いかたを理解して、文や文章の中で使うこと、と示されています[1]。五十音の1字1字だけでなく、ことばの書きかたのきまりも、1・2年生で学ぶ内容です。
3つ目は、書写です。次の3つが示されています[1]。
- 姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。
- 点画の書き方や文字の形に注意しながら、筆順に従って丁寧に書くこと。
- 点画どうしの接し方や交わり方、長短や方向などに注意して、文字を正しく書くこと。
文部科学省の「学習指導要領に関するQ&A」には、低学年の運筆の指導について、水書用筆のような、扱いやすく筆あとが消える道具を使う工夫が例として挙げられています。点画の始まりから、進めかた、終わり(とめ・はね・はらい)までの動きをくり返し練習する、という考えかたです[3]。学校では、こうした道具で、書くときの手の動かしかたを練習する場合がある、ということです。
今回ひらいた学習指導要領の本文には、「入学の時点で、ひらがなを書けること」を条件にする文は見つかりませんでした[1]。ただし、本文を一文ずつ精読したわけではないので、「ない」と断言はしません。
幼稚園・保育から小学校へ、つなぐしくみ
小学校には、入学したばかりの子どもに合わせた工夫があります。学習指導要領の総則には、幼稚園教育要領などにもとづく幼児期の教育で育まれた資質・能力を踏まえて教育活動をすること、とくに入学当初は、生活科を中心に、合科的・関連的な指導や弾力的な時間割の設定などの工夫をすること、と示されています[1]。
これを「スタートカリキュラム」と呼びます。文部科学省と国立教育政策研究所の手引き(2018年3月)では、幼児期の遊びを通した学びを、各教科の学習へなめらかにつなぐものと説明されています[2]。手引きには、保護者にも、スタートカリキュラムの意義や、期待する子どもの姿を伝えることが大切だ、という趣旨の記述もあります[2]。学級だよりや懇談会で説明する、という学校の例です。
手引きの例には、学校探検で出会った人に「名前カードを渡したい」という思いから、国語の「よろしくね」の単元につなげるものがあります。文字の学習が、人とつながるという生活の中の場面から入っていく例です[2]。
幼児期の側は、幼稚園教育要領が、文字に対する興味や関心をもつこと、文字などで伝える楽しさを味わうことを示しています[4]。つまり、幼児期は「興味や関心」、小学校では国語で「読み、書く」、そのあいだを入学当初の工夫でつなぐ、という流れです。ただし、実際の進めかたは、学校や地域、使う教科書によってちがいます。
入学前に、ぜんぶ書けなくてもいい?
「ぜんぶ書けなくてもよい」と、はっきり書いた資料は、確認できていません。ですので、ここは「いくつかの資料を合わせると、こう考えられる」という書きかたにします。
根拠1:小学校で、読み書きを学ぶ内容になっている
先に見たとおり、ひらがなを読み、書くことは、小1・2年の国語で学ぶ内容です[1]。学校で学ぶ内容である以上、入学前にぜんぶ終えておく前提ではない、と考えられます。
根拠2:幼児期の教育は、文字への興味・関心を中心にしている
幼稚園教育要領は、文字に対する興味や関心をもつことを示しています[4]。確認した範囲では、幼児期に読み書きの到達点を決めた記述は見つかりませんでした。
根拠3:調査でも、就学前の子は、ぜんぶ書けているわけではない
国立国語研究所の調査では、5歳児クラスの「書ける」文字の平均は、1967年11月で26.0字、1988年11・12月で44.6字でした[5]。1988年の数字でも、71字の約63%です(44.6÷71、わたしの計算)。調査は秋なので、年長のおわりの数字ではありませんが、就学前にぜんぶ書けている子ばかりではなかったことがわかります。
いっぽう「読める」ほうは、ふえています。ベネッセ教育総合研究所の2012年の調査(年少児〜小学1年生の母親5,016名)では、年長の母親の9割台が、「かな文字を読める」に「とてもあてはまる」か「まああてはまる」と答えました。図表の数字は95.0%です[6][7]。
根拠4:親が「入学前に身につけておけばよかった」と思うこと
同じ調査で、小学1年生の母親に、入学前を振り返って「身につけておいたほうがよかったと思うこと」を3つまでたずねています。「文字・数・思考」の上位4つは、「えんぴつを正しく持てる」「かな文字を読める」「自分の名前をひらがなで書ける」「自分の名前を読める」でした[6]。えんぴつの持ち方と、自分の名前に関わる項目が目立ちます。「生活習慣、学びに向かう力」の上位には、あいさつやお礼、挑戦する、人の話を聞く、などがあります[6]。
注意点もあります。これらは母親の答えで、「必要なこと」を決めたものではありません。調査も2012年のものです。上の4つの根拠を合わせて、「入学の時点で、71字ぜんぶが書けることが前提とは考えにくい」と言えるくらいです。
家庭でできる準備
ここからは、一般にいわれている工夫です。「この準備をすれば、必ずうまくいく」と、研究で確かめられたものではありません。上の調査のまとめと、学習指導要領の内容に合わせて紹介します。お子さんによって、合う方法はちがいます。
1 えんぴつを持つ機会を作る
調査のまとめでは、えんぴつの持ち方は練習が必要で、絵を描く、迷路で遊ぶ、模様を描くなど、楽しい活動で使ってみるとよい、と説明されています[6]。小学校の書写でも、筆記具の持ち方を正しくすることが示されています[1]。持ち方や姿勢のことは、鉛筆の持ち方・姿勢の記事にまとめました。
2 自分の名前を、読む・書く
調査のまとめでは、自分の名前を書くことは、丁寧に書く練習でできるようになる、と説明されています[6]。持ち物の名前を一緒に読む、名前だけは丁寧に書く、くらいで十分です。
3 絵本や、身のまわりの文字に親しむ
同じまとめには、かな文字の読みは、絵本に親しみ、まわりにある文字を読むことが多ければ身につく、とあります[6]。文字が「おもしろい」「役に立つ」と感じられる経験は、幼稚園教育要領が示す、文字への興味・関心にもつながります[4]。
4 文字いがいの「学校の準備」も
先に見たとおり、親が身につけておいたほうがよかったと思ったことには、あいさつやお礼、挑戦する気持ち、人の話を聞くことなども上位に入っていました[6]。ひらがなだけに力を入れすぎず、生活の中で、話を聞く、あいさつをする、といった場面も大事にしてください。
5 書き順は、「見て、なぞって、少しだけ」
学校の書写では、筆順に従って書くことが示されています[1]。入学前に、全部の文字の書き順を覚える必要がある、という資料は確認していません。書き順れんしゅうのように、動くお手本を見て、なぞって、1日1〜3文字ほどで終える。そのくらいで十分です。学校で習う書き方がある場合は、先生の指導を優先してください。
6 教えすぎない、くらべない
学校のやりかたは、教科書や先生によってちがいます。家庭で先に細かい書き方を教えると、食いちがうことがあるといわれます。入学したら、まず学校のやりかたを聞いてから、家庭で復習する形が、混乱が少ないと考えられます。
よくある疑問
入学までに、何文字書けていればいいですか?
「何文字」という基準は、今回確認した資料では見つかりませんでした。1988年の調査では、5歳児クラス(秋)の平均は71字中44.6字でした[5]。まずは自分の名前が書けると安心、くらいの気持ちで十分です。
家で教えた書き方が、学校とちがったらどうなりますか?
学校の書写では、筆順に従って丁寧に書くことが示されていますが、細かな指導は、教科書や先生によってちがいます[1]。ちがいがあっても、子どもを責めずに、「学校ではこう書くんだね」と、先生の書き方に合わせていく形で大丈夫です。気になるときは、担任の先生に聞いてみてください。
えんぴつがうまく持てません。どうすればいいですか?
持ち方は、練習が必要なものです[6]。楽しい遊びの中でえんぴつを使う機会を増やしてみてください。強い心配があるときは、園や学校の先生、専門機関に相談しましょう。
入学したあと、ひらがなでつまずいたら?
学校では、国語の時間に、読み書きを少しずつ学びます[1]。ようすが気になるときは、担任の先生に、授業での様子を聞いてみましょう。字を書く量よりも、「書けた」という気持ちを大事にしたいところです。
参考にした資料
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」(国語 第1学年及び第2学年の、平仮名の読み書き・表記のきまり・書写の内容と、総則の「学校段階等間の接続」の記述を確認)
- 文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター「発達や学びをつなぐスタートカリキュラム」(2018年3月。スタートカリキュラムの定義、保護者への説明の記述、国語の「よろしくね」の例を確認)
- 文部科学省「平成29年改訂の小・中学校学習指導要領に関するQ&A 国語に関すること」(問5。低学年の運筆指導で水書用筆などを使う例を確認)
- 文部科学省「幼稚園教育要領(平成29年告示)」(領域「言葉」の文字に関する記述を確認)
- 島村直己「文字習得のふしぎ」(国立国語研究所の学術情報リポジトリ掲載。1967年11月・1988年11・12月の調査の、5歳児クラスの読める・書ける平均文字数を確認)
- ベネッセ教育総合研究所「幼児期の家庭教育調査の資料(research22_pre1.pdf)」(図1-3「かな文字を読める」年長児95.0%、図2-5「小学校入学までに身につけてほしいもの」の項目名と調査のまとめの説明を確認。項目ごとの%は、図の読みとりに確信がもてなかったため使っていません)
- ベネッセ教育総合研究所「幼児期の家庭教育調査の資料(research22_paper.pdf)」(2012年1〜2月、年少児〜小学1年生の母親5,016名という調査の概要と、年長で「かな文字を読める」が9割に達するという記述を確認)
この記事について:文部科学省の資料(学習指導要領の本文、幼稚園教育要領、Q&A)、国立教育政策研究所のスタートカリキュラムの手引き、ベネッセ教育総合研究所の調査資料、国立国語研究所の表を載せた論文は、ページを開いて内容を確認しました。確認できていないこと:学習指導要領解説(国語編)の、ひらがな指導や入学当初の扱いに関する詳しい説明(ファイルが大きく、該当箇所を読みきれませんでした)、学習指導要領の本文の全文精読、ベネッセの調査報告書の全体、各学校・各教科書での実際の進めかた、島村氏の論文の刊行年(リポジトリのファイル名から1998年ごろのものと見られます)です。「入学前にぜんぶ書けなくてよい」と明言した資料は確認できておらず、この記事の「根拠1〜4」は、確認した資料を合わせた、わたしの読みとりです。自分で計算した数字:約63%。専門家の監修は受けていません。内容に誤りがあれば、お問い合わせフォームからお知らせください。